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江波山気象館 メールマガジン
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2016年 2月号
メールマガジン版江波山気象館情報しおかぜ

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広島市江波山気象館から
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人工の雪
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 この冬は12月、1月の月平均気温は高いところが多く、特に東日本では統計開始の1946年以降12月として1位の高温となりました。それに伴い12月の降雪量が全国的にかなり少なく、スキー場では雪不足のためオープンを遅らせたところもありました。
 こんなときにスキー場で役立つのは人工雪です。人工雪をつくる機械には人工造雪機と人工降雪機があり、それぞれ雪のつくり方が異なります。人工造雪機は、製氷機で作った氷を細かく砕いたり削ったりして噴射するため、気温にあまり左右されずに雪をつくることができます。人工降雪機は、圧縮した空気と水を噴射することで、空気の断熱膨張を利用して一気に冷やし、空気中で凍らせて雪を降らせます。気温が氷点下にならないと雪をつくることができませんが、条件が良いと天然雪とほとんど変わらないさらさらな雪質になります。しかし、空気中の塵を核として育つ天然雪とは異なり、小さな氷の粒である人工雪は雪の結晶の形にはなりません。
 では、人工的に雪の結晶をつくることは出来ないのかというと、そうでもありません。1936年に、北海道大学の中谷宇吉郎博士(1900-1962)が世界で初めて人工雪をつくることに成功しました。中谷博士は、雪は人々の暮らしに関わる問題であり、北海道にあった研究テーマだと考えていました。ちょうどその頃、アメリカの農夫だったベントレーが撮った雪の結晶の写真集が出版され、中谷博士はその美しさに感動し、1932年に雪の研究に着手したのです。
 まずは天然雪の観察を行いました。北海道中央部の十勝岳という、真冬には気温が−10℃から−15℃となる場所で、あらゆる形の雪の結晶の写真を撮影しました。その数は3000枚に達し、それまでに報告されていたほとんど全ての形の結晶が観察できました。その結晶の分類を行い、どのような気象状態でどんな種類の雪が降るかを調べました。
 天然雪の研究が一段落すると、今度は人工的に雪の結晶をつくることを目指しました。しかし、常温の部屋では実験してもうまくいかず、北海道大学に−50℃まで下がる低温室を造って実験し、1936年3月12日に世界で初めての人工雪づくりが成功しました。
 中谷博士が作った人工雪製作装置は、ヒーターで暖められた水蒸気が装置内を上昇し、それが冷えて上部に吊るしたウサギの毛に結晶ができるというものです。この装置で温度と水蒸気の量を変えて実験を行い、できた様々な形の結晶の観察結果を一つの図にまとめました。
 後に中谷ダイヤグラムと呼ばれるようになったこの分類によると、雪の代表的な形でもある「樹枝状六花」ができるのは−15℃近辺で水蒸気の量が多い領域だったり、−10℃以上の領域では針状の結晶、−20℃以下では六角柱となったりすることがわかります。雪の結晶の形を見ると上空の様子がわかることから、中谷博士は「雪は天から送られた手紙である」という言葉で表現しました。
 雪の結晶をつくる実験は私たちでもできます。当時北海道旭川西高校の教員で、現在は福山市立大学准教授の平松和彦先生が考えた、平松式人工雪発生装置というペットボトルの中に雪の結晶をつくる実験です。この実験ではルーペなどを使わなくても樹枝状の雪の結晶を観察することができますので、ぜひチャレンジしてみてください。

中谷宇吉郎雪の科学館
中谷宇吉郎による雪の研究 http://kagashi-ss.co.jp/yuki-mus/research/
ペットボトルで雪の結晶を作ろう http://kagashi-ss.co.jp/yuki-mus/exp_snow03/